| 今野敏の警察小説三シリーズ |
2008年7月始め頃の夜、2006年刊行のハルキ文庫版で、 今野敏著「虚構の殺人者」を読み終える。
この巻末にある関口苑生による解説で、 最近のものを除いた、 それまでの今野敏による警察小説の主だった作品を、 流れを持たして、まとめて紹介してあります。
この後、「花水木」をもって、 今野敏さんによる、シリーズ化された警察小説の全てを読み終えたので、 この解説を利用して、ここに記して置きます。
二重標的 1988 虚構の殺人者 1990 硝子の殺人者 1991 蓬莱 1994 イコン 1995 警視庁神南署 1997 神南署安積班 1998 残照 2000 陽炎 2000 最前線 2002 半夏生 2004 花水木 2007
以上が、安積警部補らが登場する東京ベイエリア分署シリーズ。
その他、解説文中、これとは別に…とある部分で、 リオ 1996 朱夏 1998 それに ビート 2000
が、樋口警部補が登場するシリーズ。
それから、もう既によく知られているらしい 「隠蔽捜査」シリーズが、 二作品出ており、 第三作目が、ただいま雑誌連載中です。
これらの作品群については、 小説新潮2008.7号でも、取りまとめてあるので、 より新しく、詳しいものを求められる方はそちらをご覧下さい。
この解説文中での「触発」は、以上のシリーズものではありません。 今野敏さんの他の警察小説、三四作、手にしましたが、 気に入ったのは、以上の三シリーズでした。 折に触れ、暇つぶしに、又、読み返したいと思う。
今野さんの他の作品と大きく異なるのは、 1950年頃生まれの世代観にどっしりと腰を据えていること。 他の作品に比べて、身が入ります。
世代を一番強く意識して真正面に出しているのが、 樋口警部補が出ているシリーズです。
安積警部補が出ているシリーズは、 署内一刑事課の人間模様を中心にして、 そのやり取りが格段におもしろい。 親しめるまでに、煩瑣を感じられたらそれまでですが、 このシリーズが一番長く、 延々と読んできて、最新作の短編集「花水木」を読むと、 ご満悦モード、フルです。
そして、「隠蔽捜査」シリーズが一番新しく、 一般の読者にはこのシリーズが一番入りやすいかもしれません。 それまでのシリーズよりは、作者からの距離が保たれていて、 敷居が低いでしょう。 コアな今野ファンには、少々物足りないかもしれませんが、 より多くの読者を獲得するには、この方向がいいと思う。
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| 文学問答 |
文学問答 河野多恵子、山田詠美 2007 文藝春秋
河野さんも山田さんも、読んだことがありませんが、 名前だけはよく知ってて、気にはなっている作家です。 なんの気まぐれかこの本に手を出し、 ちょいっと読み出したら、 あれよあれよと、ぐいぐい引っ張られて読み終えてしまいました。 意外に思ったことが多く、新鮮でいろいろ教えられる。 とりわけ、谷崎潤一郎の事がそうでした。 他にも、菊池寛の「真珠婦人」の解説で、 江藤淳さんのそれを褒め、川端のそれを貶している! それぞれの解説をまだ読んでいませんが、それでも印象に残りました。 他にも様々な作家評や、時事談など、幅広くあって楽しい読書でした。
後日、岩波書店の「図書」2007.9号を読んでいたら、 そこにも谷崎潤一郎の名があって、 なんか「読め!」と命じている天の声が聞こえてくるようであります。 「谷崎潤一郎パリ国際シンポジウム」千葉俊二著 によれば、 「日本作家としてはじめて谷崎の作品がプレアード叢書にはい」ったそうで、これにも驚かされる。 川端・大江、村上なんて騒がれても、比じゃないみたい。 そして、 対談「京都で谷崎を語る」瀬戸内寂聴、渡辺千萬子 を読んでいると、河野多恵子さんの名が出て、 思わずにやりとしてしまいました。
そうか、そんな風な谷崎文学なんだ… お楽しみが増えたな♪
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| 空飛ぶタイヤ |
空飛ぶタイヤ 池井戸潤著 2006 実業之日本社
500頁近いボリュームですが、ぐいぐい引き込まれて、 残業を終えた後、睡眠時間を削って、三日程で読み終えました。 三菱自動車の二度目のリコール隠しをモデルにした小説で、 事故のトラックを保持していた運送会社の社長を軸に、 様々な関係者の視点を並列して展開したもの。 きわめて広範囲なシーンをまとめた力量は並大抵のものではありません。 乃南アサさんの「風紋」宮部みゆきさんの「模倣犯」などの分厚い作品よりも勝っていると思われる。小説としての人間性の書き込みが平板であるものの、それを補って余りある秀作で、なんか、こういう作品に適した賞がないものか、と歯がゆい。
自分の勤めている会社が中小企業で、社長が二代目で、同い年だから、余計に感情移入してしまったかもしれませんが、それでも、これは読み応えして、誰彼に勧めたい作品です。
同じ企業モノとして、「ラストワンマイル」をこの前に読んだのですが、読んでいるうちに霞んでしまいました(笑) 「ラストワンマイル」は、コンパクトな構成・スピーディーな展開で読者を引く力を持つものの、作品の厚味で負けます。 「ラストワンマイル」の決め台詞は、小倉昌男さんの奮闘を知っていると、苦笑ものに思えるし、作品として時空の切り方もご都合過ぎるように思えました。運送会社の新機軸や放送会社の乗っ取り劇のその後がまだまだ目が離せないし、郵政との対決が肩透かしに終わっている。小倉さんだったら、どうしたかな〜、といろいろ思い巡らしてしまう読後で、作品そのものの感銘は後に残りませんでした。
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| 文壇栄華物語 |
文壇栄華物語 中間小説とその時代 大村彦次郎著 1998 筑摩書房
新聞書評で著者の名を知り、 「文士のいる風景」を一読し気に入り、 続けて手にした著書です。
戦後の出版界の状況から、 昭和30年頃までの文壇模様を描いたもので、 興味深く読み終えました。
読み出して間もなく、「文士のいる風景」が、 このような著書の上に成り立っており、 話の選択、書きようがよく吟味されている由来が分って、納得しました。
様々な作家を描いた本は、若い頃によく読みました。 正宗白鳥の『文壇人物評論』や『自然主義盛衰史』、 本田秋五の『物語戦後文学史』、 広津和郎の『年月のあしおと』、 尾崎一雄の『あの日この日』等など。 これらの本から、 人の生き方、考え方、そうして世の中のありようなどを随分多く教えられたものです。
それが、今、50代に入って、 こうした類の本を久々に読むと、 才能に迷い、運の無さにくじけながら、 必死に世に出んとする作家の心中が若い頃より、 より身につまされて感じられます。
私が若かった頃、もう押しも押されぬ地位を築いていた作家たちの、 若かりし日々の様子がありありと窺える好著だと思います。
今ではもう余り読まれなくなった、 戦後間もなく話題になった、数々の苦心作を、 著者にとってのターニングポイントになった話題作を、 一つ一つ読んでみたくなりました。
五味康祐の『柳生武芸帳』などは、 人によっては、 吉川英治の「宮本武蔵」より遥かに高い、揺るぎない評価を与えています。
和田芳恵と樋口一葉とがきっても切れない結びつきを持っている事は知っていても、 和田さんの苦労と彼にとっての樋口一葉がどういうものであったかを知るに及んで、 ここには、「結びつき」という言葉では足らない何かがあるのを感じさせられます。
お終いの方、駆け足になっている書き方からも察せられるように、 まだまだ書き継がれるべき事があるようです。 作家一人一人に目を向けて知る事も多いけれど、 『週刊誌風雲録』高橋呉郎著などを併せて読むと、 尚より良く状況が見えて、興の尽きるところがありません。
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